スレコピペその30

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52 :名無し募集中。。。:2008/01/24(木) 06:36:14.67 0


夜明け前。
雨の音も大人しくなり、部屋は蒼く染まっている。
寝具で眠る舞美の一定の寝息だけが室内に響いていた。
穏やかな静寂のなか、その額にそっと手をあてる愛理。
もう熱は引いているようだ。


――よかった


ほっと安堵しつつも、夜中起きていたせいで自然と瞬きが遅くなる。
うつらうつらとさ迷う意識が、突如はっきりと覚醒する。


――…?


一瞬遅れて、腕をつかまれていることに気付いた。




53 :名無し募集中。。。:2008/01/24(木) 06:42:19.68 0


「舞美さ…」


言い終わらない内に、強く引き寄せられる。


気付けば、舞美の顔を見上げていた。
暗がりでよく表情が読めない。何が起きたのか判らずに、呆然としたままの愛理。
薄闇に慣れた瞳が、目の開ききらない彼の顔を映し出す。
その背後に広がる天井に、押し倒されているのだと理解した。




54 :名無し募集中。。。:2008/01/24(木) 06:49:34.64 0


笑い事にしようとしても、表情が変わることはない。
眼前で頬がふっと緩んだ矢先に、首筋にかかる吐息。
得体の知れない快感が背筋を伝い、全身が毛羽立つ。同時に心に広がる、恐怖。


「い…やっ……」


硬くなった身体を無理やりに動かし逃れようとするも、男の力に適うはずもない。
ワンピイスが肩から落ちた瞬間、愛理の体を本当の戦慄が襲った。




55 :名無し募集中。。。:2008/01/24(木) 06:54:41.45 0


「いや!」


自分でも驚くほどの力が出た。わずかに躊躇いをみせた腕から体をすり抜ける。
寝具から飛び降り、露になった左肩を隠す愛理。
小さな体を震わせながら舞美を見るその瞳は、潤んでいた。
零れ落ちそうな涙をぎゅっと噛み締め、駆け足で部屋を後にする。


扉の外にあったものに足をぶつけてしまい、氷が廊下に散らばる。
痛みを感じながらも、愛理の足が止まることはなかった。




56 :名無し募集中。。。:2008/01/24(木) 07:03:11.33 0


その後姿を、ぼやけた意識の中で見つめる舞美。


「愛理…?」


(私は、何を……)


夢を見ていたことは憶えている。
彼女が傍に居て、自分が笑っていて――それから…?


途切れた記憶の糸に手繰りつつ、窓の外に目をやる。
煙るような霧雨が、しとしとと降り続いていた。




103 :名無し募集中。。。:2008/01/24(木) 20:39:29.68 0


自室に入るなり鍵をかけ、ドア板を背にへたり込む愛理。
体に力が入らない。
短い呼吸だけが、室内を埋めていく。
忘れようときつく目を瞑っても、先刻のことが頭に焼き付いて離れない。


あれは舞美ではなかった。
平生の優しく穏やかな彼はそこには居らず、目に映ったのは一人の男だった。


嫌悪を感じたわけではない、ただ恐ろしかったのだ。まだ知らぬ場所へ進むことが。
だが一方で、成り行きから身を剥がしたことを悔やんでもいた。




104 :名無し募集中。。。:2008/01/24(木) 20:43:57.00 0


(自ら接吻をしたくせに、なんて意気地のない……)


浮かぶのは舞美への軽蔑ではなく、愛理自身への後悔なのである。


茫然自失のまま、化粧台の前にすとんと腰を下ろす。


鏡に映る、頬を上気させた女――まるで見知らぬ人物のようだ。


ふと首筋に目がいく。輪郭の影になった部分、薄赤の花びらが一片舞っていた。
触れてみると、まだすこし熱い。
愛しくも痛ましいそのしるしは、無情にも美しいのである。


「ばか…」


ちいさな呟きの相手は、鏡の中の少女なのか彼なのか、
それは愛理にもわからなかった。