スレコピペその29

http://mamono.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1199718051/

970 :名無し募集中。。。:2008/01/23(水) 23:48:26.34 0




アトリエの中に雨音が響き始めた。
雨漏りはもう直したのかなとぼんやり思う。


今日も相変わらず、雅はキャンバスに向い、梨沙子はそれを見つめている。


「ねえみや、何書いてるの。」


「んー。」


キャンバスの上のまだぼんやりしたそれはおそらく人間だろう。


しかも珍しいことにきちんと人間の形をしているのだ。
梨沙子にはそれが随分厄介なことに思えた。


「なんかいつもと違うよね、それ・・・男の子・・・?」


多分違うだろうと思いながら梨沙子は小さな声で聞いた。


「いや、女の子だよ」


「・・・そっ、かあ・・・」


やっぱり。
そう思いながらも梨沙子は一瞬自分の喉が詰まってしまったかと思った。
普通に返したつもりだったのに、まるで身体が固まってしまったようにぎこちなかった。




971 :名無し募集中。。。:2008/01/23(水) 23:48:37.39 0
「・・・お父様に頼まれた絵・・・?」


「いや、町で素敵な子見つけてさー、描きたいなって思って。」


雅はにこにこしながら言う。


もう梨沙子はまっすぐ雅を見れなかった。
頬の中がツンと酸っぱくなり、鼻が痛くなっている。
あと一秒でも長くここにいたら泣いてしまう。確実に。


「もう行くね。」


そういって背を向け急いで外へ出る。
扉の音を後ろに聞いてから、冷たい雨の空気を大きく吸い込む。
鼻腔を冷やされ少し楽になった。




――私は泣き虫のはずなのに、何回かみやの前でも泣いたことあるのに


なんで今日はわざわざこんな場所で泣いてるのだろう。




972 :名無し募集中。。。:2008/01/23(水) 23:49:15.36 0
梨沙子はずぶ濡れでぼんやり歩いているところを家政婦達に見つかり、
体中揉みくちゃに拭かれた後布団の中に入れられた。
幸運なのか雨と涙が一緒になって涙は誰にも見つからなかった。


やわらかい布団の中でひとり雅のことを思い、また苦しくなった。
なんでこんなに寂しいんだろう。苦しいんだろう。


梨沙子はふと愛理に会いたいと思った。


こんな風に床に臥しているとき、大抵愛理が訪ねてきてくれた。
今は病気ではないはずだが気分はその時以上に沈んでいる。




そういえば今愛理は舞美と演劇を見て幸せにしてる時間のはずだ。
そう考えると少し楽しくなった。


――明日会ってお喋りすればこの寂しさなんてきっと消えるよね




しかし瞼に雅が浮かび、心に波が立ったようにさざめいてなかなか寝付けなかった。