スレコピペその27

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879 :名無し募集中。。。:2008/01/23(水) 04:00:40.06 0


どれくらいの時間が経ったのだろう。
時計を見ようにも、繋がれた手がその場を離れることを阻止する。
泣き疲れたのか、栞菜は眠ってしまった。
長椅子に腰掛け、壊れた人形のように時のない空間に留まる自分たち。


選んだ答えに後悔はない――


そう思い込むにはこの場所は静か過ぎた。
降り止まない雨が、愛理の胸を不安で満たす。


会いにいかなくては――


意志や義務ではなく、本能が指し示す答えに、抗いきれなかった。


そっと手を放し、席を立つ愛理。
安らかな寝顔を目に焼き付けると、忍び足で出口へ向かう。
扉の閉まる音が、ぐっすりと眠る栞菜に届くはずもなかった。




910 :名無し募集中。。。:2008/01/23(水) 21:57:06.96 0


居なければいい――


円地の蛇の目傘を差し、降りしきる雨の中を進みながら、愛理はそう願っていた。
服はもう汚れてしまっているし、唇に差した紅も落ちかけている。
舞美に逢うに相応しい姿ではない、そう感じたのだ。


数歩先に厳然と佇む白い建物。
一歩近付く度に速まる鼓動に、胸が痛い。


霞んだ視界のなか、その姿を懸命に探す愛理。
しかし、一向に人影は見当たらなかった。


――もう、帰っているわよね……


願った通りの現実に、落胆している自分がいた。




913 :名無し募集中。。。:2008/01/23(水) 22:28:14.56 0
さすがに雨の中で傘もささずに、来るか来ないかも分からない人を待つのは辛かった。
舞美の髪からは水が滴り、せっかくの燕尾服も張りを失って情けなくなっていた。


千奈美から受け取った手ぬぐいももはや意味を成さないほどの強い雨が、
人気の無い劇場前に音を立てていた。


さすがに少し雨宿りするか――


劇場前の柱に隠れるように寄りかかると、舞美は愛理との甘酸っぱい日々を思い出していた。


自分の気持ちにもう少し早く気付いていれば――


ふと懐中時計に目をやると、もうすぐ一幕の終わる時間だった
舞美はため息をつくと、諦めたように後頭部を柱にもたれ、目を閉じた。




919 :名無し募集中。。。:2008/01/23(水) 22:38:31.66 0


居ないことは分かっていた。
しかし諦めきれない思いのまま、吸い寄せられるように劇場に近付いていく。


「……愛理…?」


不意に、掠れた声に呼ばれる。


出入り口の角、ちょうど先程立っていた場所からは死角になる位置。
舞美が立っていた。


刹那、途絶える心音。


傘を畳むこともしないで、急いで駆け寄る。
髪に、顔に、洋服に雫を滴らせる姿は、まるで捨て犬である。
そうさせたのは紛れもない、愛理自身だった。
胸が張り裂けそうになる。心ごと締め付けられて、声が出ない。




921 :名無し募集中。。。:2008/01/23(水) 22:40:25.17 0


 「ここで、20分間の休憩に入ります。この時間中にお手洗いなどお済ませください。
 なお、男性用トイレの混雑が予想されます。男性用トイレは地階にも御用意してございますので、どうぞご利用ください。




(ナレーション:中島早貴




924 :名無し募集中。。。:2008/01/23(水) 22:41:39.71 0


「なんて顔を、して…るんだい?」


こんなことになっても尚、舞美は笑うのだ。
愛理は泣きたくなった。
自分が汚した優しさを目の当たりにして、罪の重さを思い知る。


「ごめんなさい、私…私……」


伝えたい言葉があるのに、零れるのは謝りの言葉だけであった。
舞美の顔を直視することが出来ない。




932 :名無し募集中。。。:2008/01/23(水) 22:45:55.33 0


突然、肩に重みが圧し掛かる。


一瞬胸が鳴ったが、すぐに様子がおかしいことに気付いた。


「舞美さん…? 舞美さん! 舞美さん!!」


身体を支えながら、懸命に名を呼び続ける愛理。
一向に返答はない。
左手で額を覆う。身体は冷えているのに、その部分だけが異常な熱を持っていた。


無常にも雨足は一層激しくなっていく。




933 :名無し募集中。。。:2008/01/23(水) 22:51:51.79 0


「誰か…!」


必死の叫びも、雨音にかき消されてしまう。
普段冷静な愛理をもってしても、気が動転して何をすべきか判らない。
混乱のまま、傘を掲げて劇場を後にする。
舞美を肩にかつぎながら、愛理はぼやけた視界の中を歩き続けた。




940 :名無し募集中。。。:2008/01/23(水) 23:09:24.22 0


「はあ、すっきりした」


人ごみに紛れ、女子便所から出てくる千奈美


「まだ降ってる……舞美くん大丈夫かな?」


様子を窺うため外に出るも、もうそこには誰の姿もなかった。




941 :名無し募集中。。。:2008/01/23(水) 23:09:30.44 0
一幕を見終えた熊井は、
とうとう現れなかった舞美と愛理の事が気になり、幕が下りた瞬間に劇場を飛び出した。


なにやらモギリの女の子がアタフタしていたが、熊井は目もくれずに外へ出た。


劇場から飛び出し、通りへと出た熊井は雨の中、二人の姿を探す。






「…うっ…舞美さん…しっかり…ハァッ……」






そこには燕尾服の男を背負った小さな女の子がいた。


愛理だ。燕尾服の男は舞美だろう。
熊井はいまいち状況をつかめない。




948 :名無し募集中。。。:2008/01/23(水) 23:13:34.06 0


「愛理ちゃん!……俺に任せて」
「熊井さん……」
「運ぶよ。君の家、ここから近かったよね」


愛理から舞美を奪い、歩き出す熊井。
三人は雨の中をひたすら突き進んだ。