スレコピペその21

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602 :名無し募集中。。。:2008/01/18(金) 03:37:10.53 0


「愛理、最近なにかあった?」


女学校からの帰り道。
並んで歩きながら、梨沙子はおずおずと声を掛けた。
授業中教師に当られたことにも気付かない、簡単な問題で躓く、今日に限っては
掃除を忘れて下校しかけた――以前の愛理からは考えもつかない程の失敗の数々。
明らかにおかしい彼女の様子に、気付かない者はいなかった。


「別に……何もないわ」
「ならいいんだけど……あ、そうだ。新しい絵本が手に入ったの」


深入りすることもなく、すぐに会話を切り替える梨沙子
その優しさに、愛理は内心感謝した。




604 :名無し募集中。。。:2008/01/18(金) 03:52:03.64 0


梨沙子と別れ一人になった愛理は、重い足取りでバレエ学校へ向かう。
例の一件以来、胸に恐怖心のようなものが芽生え始めていた。


少女達の戯れを聞きながら、扉の前に立つ。
絆創膏が張られた足裏の痛みが、扉に添えた手を躊躇わせる。
小さく深呼吸をした後、「よし」と呟き扉を押した。


トゥシューズを取り出し、恐る恐る中を見る。


――よかった、何もない……


ほっと安堵し靴裏を見た瞬間、心臓が大きく跳ねた。


「きゃっ」


投げ出され剥き出しになった靴裏に、びっしりと刺さった画鋲。
近くにいた生徒達も後ずさり、シューズの周りには空っぽの円が出来る。




606 :名無し募集中。。。:2008/01/18(金) 04:17:09.38 0


「誰! こんなことをしたのは!」


恐怖に震える愛理を背に、声を張り上げる人物。
愛理は突如現れた彼女の背中を見上げた。


――梅田えりか先輩…?


同じ女学校に通うえりかの人気は、下級生の愛理の耳にも届くほどだった。
このバレエ教室に通っていることは知っていたが、喋ることも恐れ多い程である。
そんな憧憬の人の登場に、愛理は驚きを隠せない。


「名乗り出なさい!」


激しさを増す怒号に、辺りはしんと静まり返る。
沈黙の中、トゥシューズを拾い上げ画鋲を抜いてゆくえりか。
続くように愛理も片方を拾った。




608 :名無し募集中。。。:2008/01/18(金) 04:26:43.89 0


「はい、稽古を始めますよー」


先生の声に、蜘蛛の子を散らすように去っていく生徒たち。
えりかに手を引かれ、愛理は身を屈めながら教室の外へ出た。
冷えた床に腰を下ろし、作業を進める二人。


「あの……ありがとうございます。梅田先輩」


小さく声をかけると、えりかはにこりと笑んだ。


「いいのよ。こういうことはよくあるから慣れてるの」


一つ、また一つと落ちてゆく画鋲。
外した所で、もうこのシューズは使い物にならないだろう。


十三の誕生日に、お父様に買って頂いたものなのに――


怒りと悲しみがない交ぜになり、紅葉のような掌が戦慄く。




609 :名無し募集中。。。:2008/01/18(金) 04:34:07.18 0


「誰がこんなことを……」
「ただの嫉妬でしょ。あなた可愛いもの」


妖しい笑顔を向けられて、愛理の胸が小さく鳴る。


「そんなこと…」
「それに……いえ、なんでもないわ。
 大丈夫よ、これからは私が守ってあげるから」


心の傷を癒すやさしい言葉。
愛理は目に涙を溜め、大きく頷いた。
穏やかな笑みの裏に潜む、黒い策略も知らずに。