スレコピペその14

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469 :名無し募集中。。。:2008/01/15(火) 23:38:38.12 O
我が家ながら大きいと感じる建物。矢島家と関わりを持ち、愛理と舞美を出逢わせてくれ、許婚という儚い誓いを結んだ鈴木家。今は少し切ない。


「おかえりなさいませ、愛理お嬢様」


扉を開けるとすぐに女中の一人である栞菜が迎えてくれた。


「…ただいま、栞菜」
「?…どうかしましたか?」


見るからに切なさが薫る愛理に栞菜が思わず問いかけた。


「別に、何もないです」
「でもっ、何か悲しそうな顔をしてらっしゃる」


いつもとは違うその表情。近頃は何があったのか毎日楽しそうに幸せそうに溶けるような笑顔で過ごしてらっしゃったというのに。
今は嘘のように悲哀を漂わせている。
女中という自身の立場を弁えているつもりだが、堪えきれず聞かずにはいられなかった。






470 :名無し募集中。。。:2008/01/15(火) 23:40:36.44 O
「あぁ…今は、一人にしてくれると助かります」


上着を受け取り自室に戻ろうと進む愛理についていこうとした栞菜に、愛理は普段の困り眉をさらに下げて、申し訳なさそうに告げる。
その言葉を受けて、長年の勘、そして恋する者としての勘が答えを導いた。


「舞美様と何かあったのでしょう?」


一瞬驚いた表情をし栞菜を見据えたあと、ふっとどこかを見つめる愛理。その瞳は憂いを帯びている。
その瞳は、すぐ傍で幼少の頃からずっと愛理を見てきた栞菜でも見たことがない寂しい色をしていた。




471 :名無し募集中。。。:2008/01/15(火) 23:42:34.14 O
「何もありません。寧ろ、何もないことが、悲しいのです…」


声を震わせたあと、意味ありげに呟いた声は静かなこの家には悲しく響いた。
栞菜ももちろん聞き逃さなかった。が、愛理はそのまま階段を上がろうと歩を進めた。かける声も出ない。
その愛理の様を見て、疼くこの胸が憎いと思った。
静かに階段を登っていく後ろ姿。見つめることしか出来ない自分。


「このことは、お父様達には言わないでください」


静かに音を軋んでいた階段の中段で愛理が突然振り向いた。
手すりにそっと手をかけ上品に佇む姿。栞菜をしっかりと見つめるその目。先程とは違い、柔らかみを持った言葉。
夕陽が差し橙に照らされた愛理は、こんな時だが素直に美しいと思った。


「はい、かしこまりました」
「ありがとう、栞菜」


愛理は自室へと戻って行った。