スレコピペその12

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436 :名無し募集中。。。:2008/01/15(火) 18:30:15.93 0


カランカラン


頭上の鈴を上手くよけて、ハイカラなカフェに入る一人の男。
その華やかな容姿に、客の視線が集まる。
男はたじろぐことなく視線の間をすり抜け、窓際の席に腰を下ろした。


「熊井さぁん」


注文を取りに走ってくる桃子の小指は立っていた。
赤い着物に白の前掛けをつけ笑顔を浮かべる様子は、正に健気な勤労少女といった感である。
可愛さに胸を鳴らしつつ、挨拶代わりに額を手を翳す熊井。
今日で三日連続、彼はこのカフェに足を運んでいる。
目的は勿論――女給である彼女、嗣永桃子だ。






437 :名無し募集中。。。:2008/01/15(火) 18:33:14.60 0


「どうしたんですかぁ? 今日はお一人?」


日曜の夕方。
桃子には、彼のような長身で端正な顔立ちの男がこんな日を空けるようには見えなかった。


熊井はその長い足を組み直して格好をつける。


「ももちに会いたくてね」
「やだぁ〜」


くさい台詞に乗せて、尻を這う手。
嫌がる素振りなんて微塵も見せずに、桃子は可愛く身を捩った。
接客に関しては、この町で彼女の右に出る者はいないだろう。


「あれ…? そういえば、もう一人の方は?」


今思い出しましたというような口ぶりだが、熊井が来店した時から桃子の狙いは定まっている。
先日熊井と共に来店した、端正な顔立ちの男。
先刻の愛撫から身を守ってくれた時、桃子の心は彼奴に傾いたのだ。




439 :名無し募集中。。。:2008/01/15(火) 18:34:42.07 0
「ああ、矢島? アイツ最近付き合い悪いんだよ。今日だって誘ったのに断られてさ」


(へぇ…矢島さんて言うんだ)


名前まで格好いい、注文書が嬉しげに揺れる。


「ねぇねぇ、矢島さんってどんな人なんですか?」
「どんなって……真面目すぎるぐらい真面目な奴だよ。なに、あいつに気があるの?」
「いや、そーゆーわけじゃないんですけどぉ……」
「あいつは駄目だよ」
「なんでですかっ?」
「許嫁がいる」


一瞬頭に浮かんだ茉麻に手刀を切りながらも、熊井は続けた。


「それがまた出来た子なんだこれが」
「そうなんだ……」


衝撃を隠しきれない、という表情だ。
あと一息――熊井は百戦錬磨の決め顔をつくった。


「だからさ、ももち、おれにしない?」






440 :名無し募集中。。。:2008/01/15(火) 18:40:03.89 0


つーぐーなーがー
絶妙の時機で、野太い声が二人の会話を裂く。


「あっ、もぉ怒られちゃう」


ナイス店長
心の中で呟き、桃子は厨房へと駆けていった。


「また小指立ってる……ってあれ、注文……」


まぁいいか――
ふうと一息をつき、窓の外を見やる熊井。
暮れかけた朱色の光に、涼やかな目元が細くなる。




441 :名無し募集中。。。:2008/01/15(火) 18:41:06.92 0
と、その時。
前方から駆けてくる一人の少女が目に入った。そして間もなく、見慣れた友の顔。


「……愛理ちゃん? え、矢島?」


(これは……)


苦しげな表情で走る女を追いかける男。
恋愛には多少の免疫がある熊井は、一瞬で状況をつかんだ。


(あいつ、大丈夫か?)


洋書を紐解くも、二人の顛末が気になって内容が頭に入らない熊井だった。