スレコピペその23
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707 :名無し募集中。。。:2008/01/20(日) 23:51:37.18 0
茉麻はいつも待っている。
自分の許婚、熊井が自分の元へ来ることを。
「・・・はぁ。」
来ないとわかっている人を待つほど辛いことはない。
だが、茉麻は女学校から帰るといつも待っている。
いつ来てもいいように、綺麗な服を着て、待っている。
「・・・友理奈さん・・・か。」
久しぶりに名前を呼んでみても、
その空虚は埋めることが出来なかった。
幼い頃初めて会って、将来結婚するのだと言われた。
それは変えられないのだとも、教えられた。
だから茉麻は熊井にふさわしい女性となれるように
いつもそれを意識して育てられたのだ。
708 :名無し募集中。。。:2008/01/20(日) 23:58:24.77 0
しかし当の本人はあまり許婚というものに関心がなかった。
熊井にとって茉麻のことは許婚というよりは友達だった。
だから気兼ねなく遊びまわっていたし、
カフェーに出入りしていることを茉麻はちゃんと知っていた。
でも茉麻に止める術はなかった。
辛くて悲しかったとしても、許婚と決まっていても、
熊井がなんとも思っていないのでは言う意味がなかった。
「・・・許婚って・・・一体なんでしょうか・・・」
「えっ?・・・」
近くにいた女中が聞き返すと、茉麻は黙って首を横に振る。
「いいんです・・・私は待つしかないのだから。」
「お嬢様・・・平気なのですか・・・私だったら・・・」
「しょうがないわ・・・私に選択はないのよ・・・ありがとう。」
茉麻は優しく微笑んでティーを口にする。
そして今日も熊井が来ることはなかった。
709 :名無し募集中。。。:2008/01/21(月) 00:05:16.74 0
「私ばかりが・・・あなたを・・・一方的に好きなのかしら・・・」
背が高く、スラリとした西洋の趣を持った許婚。
いろいろな場所で噂はよく聞いていた。
それでも自分の許婚なのだと思うと茉麻は優越に浸れた。
しかし本人は月に一度の食事会をいつも欠席し、
茉麻はもう何ヶ月も熊井の姿を見ていなかった。
会わなければ会わないほど茉麻は自分がどれほど、
熊井という青年に心惹かれているのかを知る。
女中たちはみな、茉麻の気持ちを痛いほど理解していた。
それでも茉麻は、気丈に振る舞う。
女学校で弱音など吐いたことはなかった。
様々な人から熊井がカフェーに入り浸っていると聞いても
「そうですか。」
と一言返して懐が深いのだと見せ付けてきた。
そんな茉麻が家に帰って熊井を待つ時間。
茉麻はとても弱い存在となり可憐な乙女になる。
しかしそれを知っている人は女中以外になかった。
見せたいと願っても、本人は現れることがないのだから・・・。
755 :名無し募集中。。。:2008/01/22(火) 02:37:23.08 0
茉麻は心底驚いていた。
なぜここに熊井がいるのだろう。
「茉麻・・・ごめん。」
熊井は下を向いて茉麻に謝った。
茉麻はあまりの出来事にその場から動けなかった。
「これ、もらって欲しい。」
熊井は何かを茉麻に差し出した。
それは、舞美のために尽力したチケットとは別のチケット。
「・・・大した席ではないが、・・・よかったら。」
照れくさそうに、でも、茉麻の目を見て熊井は言う。
茉麻は熊井がなぜここにいて、
なぜ自分にチケットを渡すのか、わからなかった。
「俺の友人も許婚を連れて来る・・・紹介したい。」
「友理奈さん・・・でもっ・・・」
「君は俺の許婚だ。そうだろう?」
「っ・・・はいっ・・・グスっ・・・」
茉麻は熊井にしっかりそう言われて泣き出してしまう。
泣きたいわけでなく、ちゃんと例を言いたいのに。
言葉は出ずに茉麻は泣いてしまった。
759 :名無し募集中。。。:2008/01/22(火) 02:44:11.08 0
熊井は動揺していた。
今まで散々放っておいた許婚が目の前で泣いている。
茉麻は友達であり、許婚だった。
熊井はそのあいまいな関係が苦手で逃げ出していた。
しかし、舞美に逃げるなと言った以上、逃げてばかりもいられなかった。
遊ぶことが悪いことだとは思わない。
だが、茉麻は将来自分と結婚をする相手だ。
女子と遊ぶなどとは次元が違う話になってしまう。
「泣かないでくれ・・・すまない、俺が今まで・・・」
「ち、ちがっ・・・ごめんなさいっ・・・わ、私・・・」
茉麻をふわりとしたものが包んだ。
熊井が咄嗟に茉麻を抱きしめたのであった。
背が高く、身体のしっかりした熊井にしっかりと抱きしめられる茉麻。
「一緒に・・・来てくれるだろう?」
「はいっ・・・もちろんです・・・グス」
「よし、じゃあ夕食にしよう、一緒に・・・」
それでも泣き止まない茉麻を熊井はずっと抱きしめていた。
か弱い、乙女、少女。
強い女性だと思っていた茉麻に対して初めて感じる思い。
熊井は戸惑いながらも茉麻をきつく抱きしめて
守らなければならないのだと責任感を感じるのであった。