スレコピペその16

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509 :名無し募集中。。。:2008/01/16(水) 18:00:10.22 0
興奮ぎみに鏡の前で襟を整える。佐紀がこんなにめかしこんだのは従姉妹の結婚式以来だ。
(おかしくないかな・・・)
新品の靴を履き玄関兼店の中を緊張しながら歩く。


「おう佐紀、もう行くんかい?ちっと早かぁねえか?」
佐紀の父が仕事の手を休め、緊張して浮き立った様子の娘を嬉しそうに眺めた。




「なんかもういてもたってもいられなくってさ!・・・それより我儘してごめんね父ちゃん、店手伝えないし。」


「いやいや、お前には無理させっぱなしだったからよぉ、今日は一日楽しんできな。」


佐紀は朝から晩まで家業を手伝っている。
働き者でキビキビと元気に働く姿は人を笑顔にさせるのでこの青春大通りの誰もが佐紀を愛している。
店のいた顔馴染みの小母さんもおめかしした佐紀にくすぐったいような賛美の言葉を浴びせた。


「じゃあ行ってくるね!!!」


この通りの向こうに劇場がある、いつか観たいとずっと憧れていた劇場。今日はそこに行くのだ。






510 :名無し募集中。。。:2008/01/16(水) 18:00:20.83 0
佐紀は働くのが好きだった。でもこの通りや店に来る同じ年頃の女学生の姿を見ると時々羨ましくもなった。
色とりどりの着物とゆかり色の袴、そして編み上げブーツ、
あんみつを食べ外国の小説の話をし、楽しくおしゃべりする、彼女達はこの世の主役のごとく輝いて見えた。


自分はああいった美しさとは無縁だろうなあと考えていた。


しかし佐紀はこの間初めて「美しい」と言われたのだ
お使いの帰り呼びとめられ、画家だというその人に公園のベンチで何時間もスケッチされた。




「私なんて描いても楽しくないでしょ?他にもっと素敵な女の子が歩いてんのに。」




長く座っているのに飽きてそう言うとその画家さんはえらく真剣な目で反論した。
こんなに描きたくなった子は初めて、だからお願い、
そして可愛いし活き活きしていて本当に美しいと。


――変な人だったな、他の絵は変なのばっかだったし、きっと感覚がおかしいんだ




その人はそれからもときどき店の中を窺っていたりして佐紀の父が不審がっていた


公園に寄ってみたが姿は無かった。反応を見たかった佐紀は少し残念に思った






512 :名無し募集中。。。:2008/01/16(水) 18:05:21.19 0
劇場につくと綺麗な建物の周辺はお洒落をした家族連れや男女で溢れ上品な雰囲気だった。
この雰囲気全てが佐紀にとって新鮮だった。
ああついに憧れの観劇ができるのだ。
佐紀が緊張して入り口の列に並んでいると向こうから高い女の声が聞こえた。


「おねがいしますよぅ!もぉは将来ここにいっぱいお客さん入れてリサイタルやりますから!
 中ちょっと見るだけなんでおねがいしますぅ」


「だめだもんにー!!」


自分と同じくらいの身長の女の子がもぎりと揉めていた、あれはカフェーで働いてる子だ。
なんだか緊張がほぐれ、佐紀はおおきく深呼吸し、入り口の赤いカーペットの上を歩みだした。