短編小説第二話目

多分4ぐらいで終わる
愛理が可哀想な子になってるよ…






――始まりは…――




朝家を出る時、天気予報は曇りだった。
それを信じてたのに…

放課後、図書館で本を読んでいたら聴こえた雨音。
シトシトと弱い音だったから止むのかと思った私の考えは甘かった。
次第に勢いを増し土砂降りになってしまっていく。

慌てて下駄箱の前まで来たはいいがこの雨の中帰りたくはない。
傘立てには何本か傘がある。使えば濡れずに帰れる。でも後ろめたさがあり使いたくない。

親…は仕事だから呼んでも迎えにはこれない。
溜め息一つ。
明日も学校があるから制服を濡らしたくはないのに。



「あれ?愛理?」


突然響いた音に思わず振り返るとそこには見知った人がいて、「やっほー」なんて言いながらこっちに向かってくる。


「なんかずっと動かないからどうしたのかなー?って思ってさ。」
「いや、あのー帰ろうと思ったけど傘持ってくるの忘れちゃって…」


あははなんて苦笑いしてるとちょっと考え込むような仕草。
それから良い事を考えたようなくしゃっとした笑顔をみせた。


「じゃあ一緒に帰ろうよ!あたしの傘大きいし!」


私の返事なんか聞かずに「靴履き変えてくる」と言い残しその場を去る。




一緒に帰る人がいるくせに…




すぐに戻ってきた先輩の手には見た感じ大きめの傘。行くぞーなんて傘を広げる先輩に思わず聞いてしまった。


「今日、えりか先輩は一緒じゃないんですか?」


えりか先輩…あの人―舞美先輩の彼女で私の部活の先輩でもある人。
部活と言ってもほとんど活動していなくて、何かしら部活に入らなきゃいけないために作られたような部活。
えりか先輩はその部の部長。


「えり?えりなら今日はバイトだって。」


あっけらかんと言い放ち早く早くと急かす。
「あたしは部活あったしさ〜。愛理と帰れてラッキー」なんて楽しそうに話したり。


私がその言葉に心を弾ませてる事なんて先輩は知らない。
「濡れるからもっとこっちきなよ」なんて言って肩を抱くことに動揺してるなんて知らない。




――彼女がいるくせに…


えりか先輩に言ってやろうかな、なんて少し思う。
でもこの時間が少し…ほんの少し幸せで。その幸せを手放したくはないから黙る事にした。





―――――




だいぶ私の家に近付いてきたけど舞美先輩の家はどこなんだろう?
わざわざ遠回りしてるんじゃないかな?
この雨の中自分の彼女の後輩を家まで送り届けるなんて優しい人だな。


そう思ったら家に着いた時、そのまま帰すなんて出来なかった。
私の代わりに少し肩が濡れているのを見たら引き止めてしまった。






それが過ちの始まりだった…






外はまだ雨で。家には私と舞美先輩だけで。


私は密かに舞美先輩の事が好きで…





だから突然の質問に答えられなかった。


答えられない変わりに顔が熱を増す。




「ねえ、愛理ってキスしたことある…?」




何も考えられなくてただただその言葉を頭の中で繰り返す。


視線が絡み合う。


徐々に近付く距離。

その瞳は真剣で、真っ直ぐ私を捕らえてて。




気がつけば唇に温もり。


すぐに離れていったけど近い距離に今の出来事を理解する。




「あれ?もしかして初めてだった?」


そう悪戯っ子な笑みを浮かべ様子を伺う。
勿論、その問いに答えることなんて出来ず顔を背ければまた近付く顔。




「愛理…もしかしてエッチもしたことない?」


耳元で言われたその言葉に勢いよく顔を向けると先輩は今までとは違う表情。
笑顔なんだけどいつもの優しい笑顔じゃなくて目が笑っていない。


次の瞬間気がつけば目の前に天井が広がる。


床に押し倒されたと自覚する前に二回目のキス…


だけどそれは触れるだけのものじゃなくて勢いと深さを増す。
慣れてないから息がうまく出来ない。
ただ受け身でいたけど苦しくなってきて思わず肩を叩く。
そこで止まってくれたから私はずっと気にしていることを口に出す。


「えりか先輩…えりか先輩は…」


息が切れて上手く言葉を紡げない。
だけどその単語だけで意味は汲み取ってくれたらしい。
先輩には彼女がいる。
だから…こんなのおかしい…


なのに…


「えりは関係ない。今は関係ない…」


譫言のような恋人の名を呟き熱が籠もった瞳で私を射抜く。


そしてまた降ってくる唇。


拒もうとまた顔を背けてもその唇は首を這い段々と下に行く。
背筋をゾクリと何かが駆け抜ける。気持ちが良いのか悪いのかなんてよく分からない。
その感覚から逃れたくて抵抗したかったけど力で勝てるわけもなくなすがまま。


制服も下着も脱がされ次第に気持ちよくなっていく感覚に身を委ね言葉にならない音を叫び私の意識は途切れた。




ただ朦朧とした意識の中先輩に抱きかかえられ布団に寝かせられた記憶は残ってる。


そして「ごめんね…」と淋しげに呟く後ろ姿。



私はその姿と私の名を呼ぶ声をいつまで経っても忘れられない。